イギリスで最も権威ある文学賞・ブッカー賞に
初めて同性愛者を扱った作品が選ばれる

 10月19日、イギリスで最も権威のある文学賞・ブッカー賞の発表があり、134冊のエントリーの中から、初めて同性愛をテーマにした小説が受賞した。その作品は、アラン・ホリングハースト氏の『美の線』"The Line of Beauty"。賞金50000ポンドを獲得したホリングハースト氏は、「一生の間感謝し続けたい」と受賞の喜びを述べた。

 前文化大臣で審査委員長のクリス・スミス氏(イギリスで最初のカミングアウトした大臣)は「信じ難いほど異色の」選出であることを認め、予想屋や文芸評論家はかなり驚いているという。『美の線』は出版と同時に絶賛されたものの、大方の予想では、デイヴィッド・ミッチェルの『雲の地図』“Cloud Atlas”が受賞するものと思われていた。

 スミス氏は授賞式で、ホリングハーストの小説は、マーガレット・サッチャー政権下の1980年代英国におけるゲイ男性の人生を、精緻にかつ深く描いたことが受賞の要因だ、と述べた。「刺激的で、才気が輝く書き方で、サッチャーの時代に深く迫っている。これほど、愛とセックスと美が精巧に描かれることはめったにない」。

 『美の線』は、青年ニックの道程をたどり、保守党が支配し景気が上昇して破綻する時代に、彼がロンドンの野心的な議員と行動を共にしながら、どのようにどん欲な世界に入って行くかが書かれている。その上に、彼の恋愛、保守党員やそのリーダーとの不安定な関係、当時ゲイコミュニティを破壊するかと思われたエイズによる危機などが重ね合わされている。ニックがサッチャーと踊るシーンもある。

 ホリングハースト氏は、1954年英国南西部グロスター州生まれ。1988年に『スイミングプール・ライブラリー』でデビューし、サマセット・モーム賞を受賞。1994年には『囲い込みの星』"The Folding Star" でブッカー賞の最終候補に残ったことがある。

 彼は、受賞翌日の BBC のインタビューで、賞金をむだ遣いするタイプの人間ではないが、これで次の本を書くまで「息つく暇」をもらえるだろう、と語った。しかし、受賞によって読者層は確実に拡がるし、ほんの売り上げも急上昇するだろう。「息つく暇」などないかもしれない。

※作品のタイトルについてはニューヨーク在住の北丸雄二さんにご教示いただきました。ありがとうございます。北丸さんは、『スイミングプール・ライブラリー』の翻訳をされています。

記事のまとめ:伊藤

 

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